金髪の少年 3

唄なのか、祈りなのか。
金髪の少年には理解できない言葉を、サクモは節をつけて唱えながら、腕の中のカカシをあやす。
さらり、さらり、とサクモの長い銀髪が胸元で揺れる。
赤ん坊のカカシは、安心しきったように眠っている。
世界が始まる前から、こうしているような。
世界が終わった後も、こうしているのではないかと思わせるような。
そんな奇妙な感覚にとらわれて、少年は、意識して現実的な語を吐く。
「検査の結果は異状がないそうです。体力も回復しているし、退院しても差し支えない、と忍医も綱手さまも」
少年が伝えると、サクモはカカシを、己の寝台の脇に備え付けられた乳児用ベッドに移した。
当初、里の首脳部は、赤子を乳児院か、小児科に預けるつもりでいたのだった。
だが、サクモはカカシを抱きしめて離そうとはしなかった。
看護士や保育士に託すのさえ嫌がる。
諦めたのは綱手で、ベビーベッドを入れてやり、サクモが己が手でカカシの世話をするのを助けてやっていた。
カカシを寝かせてから、サクモは少年を見る。
「ありがとうございました。これから、私とカカシは、どこに行けばいいのですか」
サクモの蒼い瞳に、不安や惑いはなかった。
少年を信じきった瞳だ。
「とりあえずは火影様のお屋敷へ。そこにいる間に、サクモさんに忍者の適正検査を受けてもらって、任務に応じた住居を用意する、ということに里の方針は決まりました」
決定しているのは自分ではないことを、少年は強調する。
サクモは、軽く首を傾げた。
「火影様のお屋敷。そこに、あなたもいらっしゃるのですか」
「まさか。おれは、これでも一応、上忍なので、それ用の宿舎をもらってます」
サクモは眉根を寄せた。
「私もカカシも、あなたと一緒ではないと良くない、難しい、です」
言葉を、必死でさがしているサクモの顔だった。
サクモは、流暢に五大国共通語を話すが、心情や仙山のことを語るときには、言葉を置きかえることに苦労するようだった。
氷河の国の言語をかなり理解する自来也が補っても、仙山という特殊な場を木の葉の里人にわかるように、表現するのは困難であるようだった。
「おれも出来る限りサポートしますから。心配はいりません」
常識的な少年の言に、サクモは首を振った。
「私は忍者になれると思います。任務もこなせるでしょう。生活も、カカシと二人でできる。けれど、それではないです。あなたは、カカシに命をくださった。あなたと、一緒に、カカシは、私は、いたいのです」
一語一語を区切るようにして、サクモは真剣に言葉を刻んだ。
金髪の少年の心が、熱くなる。
今まで、感じたことのない種類の熱さだった。
「……里の決定です。しばらく我慢してください。あなたが適正を認められ、忍びとなり、カカシくんも里の子として認められたら。そうしたら、おれも動きます」
「わかりました」
サクモは、柔らかく笑んだ。
「暫定処置、ですね。それなら、わかります」
浮世離れしている、というのは、ああいうのを言うんじゃろうのう。
三代目火影が、自来也が、ため息混じりにサクモのことを言うのを、少年も思い出す。
それしか表現がない。
本人は、いとも簡単に、忍者になれるなどと言っているが、果たして可能なのだろうか。
それが、サクモに良いことなのだろうか。
少年は考える。
良いように、自分が方向を修正していかなければならない。
少年は、疑問に思っていなかった。
いくら若くて浮世離れしているとはいえ、自分よりも年上の男と、生まれたばかりの赤ん坊と、二人の人生を、自分が背負うということを。

サクモの剣と、術の実力はぬきんでたものだった。
仙山では霊力とされていたチャクラの量は、自来也や大蛇丸に匹敵した。
火影預かりで下忍となり、自来也、大蛇丸、綱手と就いた最初の任務では、三忍に負けずとも劣らない活躍を示した。
時代は、忍界大戦の世だった。
力のある忍者は、喉から手が出るほど欲しい。
政治力に長けた三代目火影は、氷河の国からの追及をあっさりとかわし、火の国上層部を納得させ、サクモにはたけの姓を与え、正式な忍とした。
一年も経たないうちに、はたけサクモは、愛刀の白光のチャクラ刀と共に「木の葉の白い牙」と恐れられる存在になった。
任務もこなせるでしょう。
その言は、謙遜した表現であったということに、結果的にはなった。

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