金髪の少年 7

闇が濃くなっていた。
昼間の激戦は、勝利と報告できる生還人数で終えた。
大隊の長である金髪の少年は、野営地で、掃討戦に向かった暗部の報告を待っていた。
木の葉忍と岩忍の戦いは、力が拮抗している。
なかなか、決定的な勝負がつかない。
「掃討戦、終了しました」
ひそやかに暗部の影が、大隊長のすぐ横に現れ、告げる。
「ご苦労。暗部に引き揚げ命令と休養を。生かして捕獲できたか」
「ご指示通り、中忍以上を三名」
「よし。尋問部に引き渡せ」
「は」
現れたときと同じひそやかさで、影が消える。
少年は、副長を呼び、第三種警戒態勢に命令を変える。
これからが正念場となる尋問部を除き、事実上の休息時間だ。
少年も、天幕の寝所に横になった。
ここまでのところは、上手く行っている。
敵の戦力を、じりじりと削いでいくこと成功している。
一気に攻め入るのではなく、持久戦になることを覚悟してきた木の葉だ。
まだまだ音を上げるような時間は経っていない。
それなのに、少年の心はざわついていた。
ここにカカシが居たらいいのに。
少年は、幾度もその念に駆られていた。
小さなカカシの身を強く抱きしめたなら、どんなに騒いでいた心も落ち着く。
沸騰した血は、嘘のように正常な流れに戻り、冷えた全身は温もりを取りもどす。
カカシでも、サクモでもなく。
自分が、カカシに依存していたのだ。
少年は、自嘲の笑みを浮かべる。
次に、今度のような大きな戦いになったとき、カカシも連れていく、と言い出すであろうサクモを突っぱねる自信は、もう少年には無い。
カカシは、アカデミーに通うことを喜んでいるのに。
少年の自嘲は強くなる。
最初のはにかみが止むと、カカシはうみのに懐いた。
サクモや少年に屈託なく甘える態度や、三忍、三代目に好奇心いっぱいに近づいていくのとは異なり、「先生」という種族を認識したようだ。
師を慕う。
幼いながら、そんな様子が見てとれた。
そのまま、里に置いて。里の子として。
そう願っているのに、カカシの不在を、自分が耐えられない。
「お休みになれませんか」
掃討戦の終了を告げた暗部が、サクモの声音に戻って、天幕に入ってくる。
「気が昂っています。まだまだ修業不足ですね」
少年も大隊長ではなく、普段の口調になる。
「酒か、何か、お持ちしますか」
「いいえ。今は要りません。ありがとうございます」
カカシが欲しい。他のものでは、代用にはならない。
サクモに、口に出して言ってみようか、と一瞬、考えて、すぐに打ち消した。
理性もまだ、起きている。
かたん。
サクモが、面を地に落とす音がした。
続いて、暗部のマント、装備を外す音。
衣擦れの音。
さらり。
最後に縛っていた髪をほどいて、銀髪が揺れる音がした。
「! サクモさん!」
驚いて、少年は寝所から立ちあがる。
夜目のきく忍の視力が、今は疎ましい。
長い銀色の髪。
蒼い瞳。
白い肌。
均整の取れた肉体。
サクモの全裸は、異様になまめかしく、少年の目に映る。
「あなたは、道具としてお使いになればいいのです。カカシのことも、私のことも」
常の通りの口調。
迷いなど何もない、サクモの言葉。
そんなふうに思ったことなど、一度もない。
ましてや、サクモを欲望の対象に見たことなど!
即座に否定しようとして、喉がひりついて語が出なかった。
目が、サクモの身体から離せない。
欲望が、頭をもたげている。
さっさと己のものにしてしまいなさいよ。
今なら、サクモはあなたのものになる。
大蛇丸の言葉が、鮮やかに蘇ってくる。
抱きたい。
この男を、この綺麗すぎる男を、抱きたい。
手が、指が震えた。
その震える手を、サクモの肌に伸ばそうとする。
サクモは、そっと歩みよる。
抱きしめて。
口付けて。
めちゃくちゃに抱きたい。
サクモの蒼い瞳が、少年を見つめる。
その瞳に映った自分は、もう少年ではない。
男、雄でしかない生き物。
抱きたい。
男の指が、サクモの銀色の髪に触れた。

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