日光に行こう! 2(現代O阪人パラレル)

「来る途中で見た、ええ感じの洋館、なんですやろ?」
職業柄か、本人の趣味か、サクモは、珍しいものを見逃さない。
「JRのほうの、日光駅らしいですよ。すぐですから、行ってみましょか」
両手に三人分の荷物を持ち、ミナトは、軽々と歩を運ぶ。
サクモは、カカシの手を引いて、後に従った。
駅舎をじっくりと見てから、係員の説明を聞き、入場券を買ってホームから直結している貴賓室を見学する。
実際には一度も、当の貴賓をお迎えしてはいないという部屋は、調度の一つ一つにも歴史の重みがあった。
「さすがに気品がありますねえ」
ミナトが言う。
「きひんしつだけに、きひんがある?」
すかさず語を継ぐカカシは、まだまだオオサカで育てられたこ、である。
「カカシ、笑いは、駄洒落に走ったらあかんで」
重々しい表情で、ミナトはカカシに告げる。
サクモが、くすり、と笑った。
「カカシが言わんかったら、自分で言お、思てたくせに」
「あかんわ、サクモさん。人の心、読んだら、あかんです」
言いながら、ミナトも笑ってしまう。
「いまの、かかしが、わらかせたんやからね」
難しい顔で、カカシは宣言する。徹底して、笑いにこだわるのは、やはり、オオサカで育てられたこ、である限り仕方がないのだろう。

ホテルに向かって、ゆるやかな、しかし、なかなかにきつい坂を行く。
ミナトは、三人分の荷物を持ったまま、すたすたと登っていく。
サクモは、いちいち、店に引っかかる。これは、職業柄というより、趣味だろう。
「サクモさん、帰りにしましょ。今、そんなん買って、どないするんです」
ミナトは冷静である。それでも何かかにかを見たがるサクモを止めないのは、興味を示すものを見つけたときのサクモが、瞳を輝かせて、カカシよりも幼いこどものようだったからだ。買うことを禁じられて、がっかりする表情も可愛いと思う。まあ、サクモであれば、どんな表情でも、ミナトの目には、好ましく映るのだが。
なんとか荷物を増やさずに、一行は、ホテルに辿りついた。
まだチェックインの時間ではなかったため、フロントに鞄などを預け、ホテル内のレストランに行く。
「百年前のレシピで作ったカレーが名物らしいです」
「へえ。じゃあ、それにしましょう」
ミナトの言に頷き、サクモはカカシを見返る。
「カカシには、量が多いかな。父さんと半分こ、な」
「いや。かかしも、ひとりぶん」
カカシは、断固として、サクモとミナトと同じでなければならない、と決意している様子である。
「肉の種類も三種類あるみたいやし、ここは、三皿、頼みましょう」
ミナトが、さっさと決める。
「思ったより、辛い、ですね」
食が細くて苦いものの次に辛いものが駄目な、鴨を頼んだサクモが真っ先に、音を上げた。
「からいんは、だいじょぶやけど、おなか、いっぱい」
チキンを注文したカカシも、匙を置く。
「ん! そんな、辛ないですよ。カカシ、せやったら、皿、こっちに」
結局、ミナトが、全皿を引き受ける。
「うーん、思ったんとちゃうなあ」
全て平らげておきながら、ミナトは唸る。
「海軍カレー、食べたときも、言うてましたよね」
水を飲みながら、サクモが笑う。
「カレーをこえたカレー、つか、なんか未知のもんが有るんちゃうか、て、ついつい考えてしまうんですわ」
空になった皿をサクモの前、カカシの前に返しながら、ミナトは腕組をする。
「みちのもんやったら、みちのえきに、あるんちゃう?」
無邪気に語をはさむカカシの頬を、ミナトはむにゅっと引っ張った。
「みにゃとへんへ、いひゃい」
不明瞭な発音で、カカシは必死に訴える。
「あかんで、カカシ。東京に来てから、笑いのセンスがめっちゃ悪い。あれほど、駄洒落に走ったらあかんて、言うたのに」
「また、ミナトが言うつもりやったんですね」
ふわり、と笑うサクモに、ミナトはカカシから手を離して、嘆息する。
「おれ、そないに駄洒落に頼ってますか? ん! サクモさんがわろてくれはるんやったら、なんでもええけど」
「これも、かかしが、わらかせたの。かかしが、ざぶとん、いちまい」
カカシが胸を張る。ミナトは、眉間に皺を寄せた。
「ほんま、カカシくん、東京に来てから、笑いのセンスだけやのうて、性格も悪いわ」
「みなとせんせの、おしえのとおりやもん」
あかんべ、をカカシはしてみせる。
サクモは肩を揺らせて笑う。
「カカシもミナトも、笑いのセンスは鈍ってませんよ。そろそろ、部屋に入れるの、ちゃいますか」
「サクモさんが、そ言うんやったら、そういうことで。部屋で、一休み、しましょ」
ミナトは、にっこり笑い、伝票を持って立ちあがった。

戻る 次へ