日光に行こう! 4(現代O阪人パラレル)

ホテルの歴史を学んだあと、レストランには行かなかった。
そのまま部屋で、ミナトが買ってきた軽食を夕食にする。
小さなカカシは疲れているし、サクモは食が細い。
ので、豪勢なディナーは必要なし、とミナトが判断した。
カカシはサクモの膝の上という特等席でパンを齧り、上機嫌だった。
サクモもまた、他人の目がある場所は苦手なので、ゆったりと寛いでいる。
二人が安寧であるなら、ミナトも幸福だった。ミナトが幸福だった。
静かな、いとおしい夕べ。
「これで、風呂が温泉やったら、完璧ですけど」
残念ながら、浴室は、普通のユニットバスだった。
猫足のバスタブも、今は使用していないらしい。
「明日、日帰り温泉にも寄りましょか」
サクモが、柔らかく笑む。
「ここのホテルやないけど、ミナトの、旅となんやらのレポートに、ええかもしれませんし」
「『旅と乗り物』です。ん! サクモさんは、いつも、ほんまにええことを考えますね」
雑誌名を正してから、ミナトは、満足した猫のような笑いになる。
「かかし、とうさんと、いっしょ、おふろ、はいる」
カカシが、さっくりと、ミナトの機先を制する。
「せやね。久し振りに、一緒に入ろうか」
サクモはカカシを抱きあげて、浴室に向かった。
二人なら、ぎりぎり大丈夫な広さだろうが、ここで、ミナトも、とは言えるスペースはない。
「カカシ、気付いて、やっとるんやろか」
なんとなく、カカシがわざとサクモと二人になろう、二人きりになろうとしているように感じて、そんな自分を、ミナトは、度し難く感じた。

入れ替わりに、ミナトが入浴を済ませて出てくると、サクモは浴衣を羽織っただけで、応接椅子で、まだ髪を乾かしていた。
カカシはころんと補助ベッドに転がっている。
「あれ、カカシ、寝てますやん」
ミナトは、カカシに上掛けをかぶせ、楽な姿勢をとらせてやる。
「ほんまや。さっきまで、なんやかんや、言うてたんですけど」
まだ髪を乾かしながら、サクモは驚いた顔をする。
「お昼寝もしたのに。疲れたんでしょうねえ。ん! 寝る子は育つ、いいますし、ええんちゃいます?」
サクモの手から、そっとドライヤーを取りあげ、ミナトは微笑む。
「根元から、風を送らなあかんですよ。髪の毛、傷むばっかりです」
サクモは、心地良さそうに、ミナトの手に委ねる。
「ミナトがいっつも上手にしてくれるから、おんなしようにしたつもりやけど、上手くいきませんねえ。ほんま、ミナトは、なんでも、うまい」
「ん! サクモさんを気持ちようさせるために、おれは、日夜、頑張ってますから」
ミナトは、手を止めないままで、サクモの耳朶を舐める。
擽ったそうな笑い声を、サクモはあげた。
「ミナトが、なんでもやってくれますから。ミナトが来る前とか、カカシが生まれる前とか、どうやって、やっとったんか、思い出せもせえへん」
「思い出さんでも、ええですやん。おれかて、サクモさんと出逢うてから、人生が始まったんです。その前なんて、要らへん」
ドライヤーのスイッチを止め、台に置き、サクモの髪を指でくしけずる。
「こんなもん、かな。こんくらい乾けば、風邪は引かへんはずです」
「ありがと。ミナト」
振り返るサクモの唇を、ミナトは奪う。
両手に、サクモの顔をはさみ、激しいキスをする。
いつだって、キスをしていたい。
抱きしめていたい。
サクモに焦がれていない状態を、ミナトは思い出せない。
そのままサクモの身を、寝台に横たえる。
「カカシが、おるのに」
袂から入れてくるミナトの手を、拒もうとサクモは身をよじる。
「サクモさんが、声、出さんかったら、大丈夫です」
「そんな…」
項にミナトの接吻を受け、サクモは、咄嗟に指を噛む。
「今晩は、野球の試合、ないし。ええですやろ?」
低い声で、ミナトはサクモの耳元に囁く。
野球シーズン、阪神が、勝ったときは、ニュースまで全部を見るから、負けたときは、不貞寝をするから、と拒否されることが多い。
ゆっくりと首筋を舌で辿り、鎖骨を甘噛みする。
「こ、れも…、レポート?」
掠れ気味の声で、サクモは問う。
「ん! おれの心の中だけの、特別レポートです」
ミナトは、羽織っていただけの、サクモの浴衣を脱がせ、下着もとって、全裸にしてしまう。
「綺麗。サクモさんて、なんで、こんな綺麗なん?」
囁きだけの声は、口説くためのものではない。
心からの叫びだった。
なぜ、サクモは、こんなに美しい?
急いで、急いで成長しても、ミナトは、どうしても、サクモを完全に掴まえることができない。
「そんなん言うの、ミナトだけです。ミナトのほうが、ずっと、何倍も綺麗で美形やし、わけわからんくらい、もてるのに」
サクモは苦笑し、ミナトの、金髪を引っ張る。
「綺麗なんは、サクモさんです。おれのは、みんな、口で言うだけ。せやけど、みんなが、ここまで、サクモさんが綺麗て、知らんほうがええです」

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