日光に行こう! 8(現代O阪人パラレル)

髪をととのえるのも、寝巻きを直すのも、サクモは、おとなしくミナトに任せている。
仕上げに、唇にキスをして、ミナトはサクモを抱きあげた。
先刻、使用しなかったほうの寝台に運ぶ。
そして、ミナトも、その横に身をすべりこませる。
「一緒に寝るんですか」
サクモは咎めるでもなく、どこか不思議そうに問う。
「そうですよ。せっかくの修学旅行ですから」
鮮やかな笑みを見せ、ミナトはサクモを抱きこむ。
「キツないですか」
サクモが言う。
「ん! さすが外国人用のホテル、ベッド、シングルでも大きいですやん。おれもサクモさんも細いし、くっついてたら、ぜんぜん平気」
サクモを抱く腕に、ミナトはますます力をこめる。
「寝られへんのと、ちゃいます?」
そう言いながら、ミナトに長い髪を撫でられているうちに、サクモは眠りに入っていった。
ミナトは、いつまでもサクモの髪を梳りつづけた。

翌朝、真っ先に目を覚ましたのはカカシだった。
「ああっ。とうさんとせんせい、いっしょにねたん? かかしだけ、ひとり?」
既に泣く体勢に入っている。
ミナトは、上半身を起こして、にっこり笑う。
「ん! カカシくんはお昼寝んとき、サクモさんと一緒に寝たやん。せやから、夜は、おれが一緒。一対一で引き分け」
「ひきわけ、やったら、しゃあないけど」
そう言いながらも、カカシは口を尖らせる。
「虎、昨日、引き分けやった?」
まだ半分、眠ったような声で、サクモが言う。
「昨日は、雨で試合、中止」
「きのうは、あめでしあい、ちゅうし」
ミナトとカカシの声がぴったり、重なった。
「ほんまにもう。サクモさんの頭んなか、ほとんど虎で埋まってません?」
ミナトは、サクモの頬にキスをしてから、寝台を降りる。
「とうさん、たいがあすと、かかしと、どっちがだいじ?」
カカシが、無邪気に尋ねる。
サクモは、ゆっくりと身を起こして、髪をかきあげる。
「……カカシに決まってるやん」
「今、間あがあきましたね? 考えましたね? 考えたでしょう?」
ミナトが畳みかける。
「ま、まさか、そんな。比べるようなもんやないです!」
どこか必死の声を、サクモは出す。
「どうやろうねえ。おれと、虎やったら、確実に虎ですやろ?」
「ミナト、ミナトのほうです」
サクモは、潤みかけた目をミナトに当てる。
「せやったらねえ、とうさん、かかしと、せんせいと、どっちがすき?」
またも、邪気なくカカシが問いかける。
助け舟を求めるように、サクモはミナトを見た。
だが、ミナトも、真剣な顔で答を待っている。
「……。…タイガース、かな」
サクモは、ぽつり、と声を出した。

ひとしきり、虎よりカカシだから、カカシのほう、いや、ミナトのほう、と大人気ない争いをする二人を宥め、朝の支度をした。
食事は、ダイニングルームで摂る。
「とうさん、かいだんとこ、かかし、だっこして」
カカシが、サクモにねだる。
サクモが答えるより先に、ミナトが手を差しのべる。
「サクモさん、疲れるから。おれが、したげる」
カカシは、ぷるぷると頭を横に振る。
「しょうがっこうのいちねんせいにもなって、せんせいに、だっこされてたら、しょうもない、あまえたやん。とうさんに、そっくりの、とうさんのちっちゃいばんみたいな、かかしを、とうさんが、だっこするから、ええの。あかいじゅうたんのかいだん、かかしを、だっこしたとうさんが、おりたら、めちゃくちゃ、かわいいの」
「カカシ、恐ろしい子…!」
ミナトは大袈裟に、驚いてみせる。
「この年で、そんな見え方まで計算しているなんて」
サクモが苦笑した。
「わかって言うてるわけやありませんて。ミナトがいっつも言うから、覚えて言うてるだけですよ」
「せやろか」
ミナトは、じっとカカシを見る。
カカシも、ミナトを見返す。
「カカシ、どないにせよ、階段とこ、ホテルの人しかおらんみたいやし、かわいい! て飴くれるおばちゃん、今、いてへんみたいやで」
ミナトが厳かに宣言する。
「ほんま? せやったら、かかし、さきにいく」
カカシは、さっさと歩きだした。
「計算ちゃう。あの子の恐ろしいのは、本能でやってるとこですわ」
ミナトが言い、サクモが声を立てて笑った。

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