日光に行こう! 9(現代O阪人パラレル)

少し遅めの時間だったせいか、レストランは空いていた。
大正風の窓から緑を背景にして、ナイフとフォークを使うサクモとカカシは、至極、ミナトを満足させた。
「眺め、ええですよね。こういうダイニングが取れる家、買いましょか?」
ミナトは、満更、冗談でもない表情で言う。
サクモも、真顔で答えた。
「掃除が大変ですよ。他人に入られるのは嫌やし。それに、こんな家やったら、カカシの秘密基地だらけになりますよ」
「ひみつきちなんか、ないよ!」
カカシが、慌てて言う。
ミナトもサクモも苦笑した。
玄関の靴箱から、クローゼットから、カカシの秘密の宝箱やら、何やら、さまざまに仕込んである。
本人は、あくまで秘密がバレいていないつもりだった。
「せやから、こんな大きい家で、カーテンがたっぷりしたようなのやと、カカシ、秘密基地、作りたなるやろ?」
カカシの頭を撫でながら、サクモが言う。
「……つくる、かも、しれへん。かも、やからね!」
主張するカカシに、ミナトは笑う。
「ん! カカシくんに秘密を作られるのは困るし、家、買うのはやめときましょか。今のマンションでええ、ちゅうことで」
「ほんまに、かかし、ひみつきち、なんか、つくってへん、からね」
必死で言うカカシは、作っています、と白状しているのと同じだった。
サクモとミナトは、笑いをこらえた。

荷物はホテルに預けたまま、日光東照宮を見にいった。
紅葉の季節でもないのに、さすがの世界遺産、かなりの人出だった。
「かかし、よう、みえへんから、だっこして」
カカシはサクモにせがむ。
「せやな、見えへんね。カカシ、これが有名な三猿やて」
サクモは、あっさり、カカシの計略にひっかかる。
カカシがサクモの胸に凭れて、にっこり笑う。
「そっくり! かわいー」
さっそくに、女性の声があがった。
有名な建築物を一通り見て、輪王寺に回る頃には、カカシは大きなお菓子袋(袋も貰った)がぱんぱんになるほど、菓子をもらっていた。
「おばちゃんて、なんでか、みんな、あめちゃん、もってるね。みなとせんせい、なんで?」
大漁に気をよくして、カカシは訊ねる。
「逆に言うたら、飴ちゃん、持ちだしたら、おばちゃん、いう証拠やろね。少なくとも、O阪ではその法則が成り立つんちゃうかな」
「また、変なこと、教えて」
サクモが苦笑した。

輪王寺では、その商魂たくましさに、ミナトが本気になりかかった。
「あかん、ここ、あかんわ。こんな、いかにも売らんかな、買え、買え、いうの、ちゃいます。商売、いうんは、あくまでも、相手をその気にさせて、買いたなるように、仕向けるんであって。そこに、ええ賞品を提供するんであって。こんな、あからさまなん、あかん。おれやったら、もっと、自然に、さりげなく、ほいで、売り上げ倍増させたるのに」
「ミナト、スカウトされたら、どないしますのん。東京からここまで通うの、難ですよ」
サクモは、ミナトの背中を押して、その場を遠ざけた。

昼食は、日光とはなんら関係なさそうな、フランスフェアの店で摂った。
「まあまあ、美味いほうやから、ええかな。サクモさん、この後、どうしましょか」
がっつりと肉をたいらげ、ミナトがサクモを見る。
「日帰り温泉、寄ったらええと思てたけど」
サクモの声が途中で消える。
「ん! サクモさん、他人に見せられる状態、ちゃうし。ほなら、お土産、見にいきますか」
頬を赤くして、サクモはミナトを睨む。
「かかしも、おふろより、おみやげやさんが、ええ。あのね、にっこうかすてら、ぜったい、いきたいの」
カカシの発言で、方向性は決定した。
「へえ。カカシ、日光カステラて、よう知ってるね」
「さっき、とうしょうぐうで、ほかのがっこの、しゅうがくりょこうの、ろくねんせんせいの、おにいさんが、いうててん。ろくねんせいが、ぜったいて、いうんやから、ものすごい、かすてらやとおもうの」
いや、物凄いカステラなど存在しないだろう、と大人たちは瞬時に判断したが、黙っていた。
ひょっとしたら、物凄い、かもしれない。
少しだけ、ミナトは思った。

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