やんでいた雨が、また降ってきた。
そろそろカカシが戻ってくる。
サクモに着替えをさせ、寝台をととのえ、ミナトはシャワーを浴び、上は、白いシャツを羽織っただけで、リビングの窓枠に凭れ、外を見つめていた。
サクモはまだ、微熱の眠りにある。
からだが丈夫でないのは確かだ。
少年期からサクモの友人である自来也も、そう言っていた。
だが、それ以上に、心が丈夫ではない。
仕事柄だけではないだろう。
このままでは、サクモは折れてしまう。
いや、他ならない自分が、壊してしまうかもしれない。
だって、サクモが欲しくて、欲しくて、仕方がない。
サクモは、ミナトを受けとめきれなくなるかも、しれない。
「離れたほうが、ええんやろか」
声に出して、ミナトは言ってみる。
その音で、寒気がした。
サクモもカカシもいない世界で耐えられる自信など、ない。
「ミナト」
不安そうな声が、呼んだ。
ミナトは振り返る。
寝衣のまま、サクモが立っていた。
「起きたら、あかんて…」
普段どおりの口調で言おうとしたミナトの身を、サクモの腕が包んだ。
「どこかに行ったり、せんとって」
震える声が言う。
「サクモさん」
ミナトの声も揺れる。
「離れるの、いやや」
サクモの声が、細い。
「おれかて! おれのほうが、離れるの、ちょこっとでも離れるの、いやです。せやけど!」
煩悶が語調に出た。ミナトの声は高ぶる。
「ミナトとするのが、いやなん、ちゃいます。ただ、自分で自分がわらからんように、なるんが怖い。怖いんです」
サクモが、ミナトの瞳を見つめる。
弱い光が反射して、サクモの目の色を淡くする。
誰かの見ている夢みたいに。
幻想的で、綺麗なひと。
ミナトは、サクモを抱き返し、唇を重ねる。
サクモだから、ミナトだから、ではない。
人を愛するということは、怖い。
今までの自分が変わっていくようで、怖い。
ミナトは、サクモの長い銀髪を撫でる。
「ん! 怖いもの全てから、サクモさんを守らんならん、おれがサクモさんを怖がらせとったら、どないも、なりませんね。こわないですよ。おれが、サクモさんを守ります」
甘く囁き、しかし、青い瞳には決意をこめて、ミナトはサクモを見る。
「せやから、せめて、カカシが帰ってくるまで、寝とってください」
横抱きに、抱きあげる。
軽く、抱きあげられた。
一瞬、戸惑ったような視線を送ったが、サクモは、抗うことなく、身体の力を抜いた。
こうされることは、サクモには、怖くないことらしい。
サクモを寝台に落とし、もう一度、口付けた。

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