サロメ2

波風ミナトの、四代目火影としての治世は短かった。
それは、九尾の狐襲来によって突然に終わりを告げた。
ミナトは、赤子の将来と、死神の腹の中を永遠にさまよい続けるという自身の非業な死をもって里を守った。
だが、ほんとうに、ミナトは急襲に対する苦肉の策として、それを選んだのだろうか。
カカシは未だに不審の念を持っている。
あの四代目が、九尾襲来を全く予測できなかったということがあるのだろうか。
収束に、自身と、ナルトと名づけた赤ん坊二人もの人生を捧げる術しか、ほんとうに、無かったのか。
波風ミナトは、短い在位期間に、政治的にも忍術的にも、革命というべき抜本的な幾つもの改革を楽々と行った男なのだ。
語りあったことはないが、ミナトの師であった自来也、再び火影の任についた三代目、この二人はカカシと同じ懸念をいだいているように思える。
互いに口にすることもないまま三代目もまた逝き、おそらく自来也とも話しあうことは無いであろうが。
ミナトを過大評価しているわけではない。
しっくりこない。妙なのだ。
妙だと思ってしまえば、何もかもが妙なのだが。
ま、妙だと言えば、自分ほど妙な者もないだろう。
カカシは自嘲する。
四代目火影の愛弟子、愛児という地位を失ったカカシは、男とも女とも公にされないまま任務をこなした。
暗部では、それが都合がよかった。
戦場を駆け抜け、閨で寝首を掻き、上忍師として里に落ち着くようになったときには、はたけ親子の謎として木の葉七不思議に数えられるようになっていた。
面白いので、そのままにしている。
変化の術や幻術も用いて、わざと混乱させもした。
おかしなもので、知性に富んだ、優れた忍者ほどカカシに騙される。
幼馴染といってよい間柄の猿飛アスマやマイト・ガイでさえ、カカシが自ら言葉で告げるまで、男とも女とも判断がつかなかったと言った。
「どちらでもたいした違いはないからな。深く考えはしなかった」
そんなふうにガイは言った。
実際、カカシがカカシである限り、男だろうと女だろうと関係ないのだろう。彼らには。
いちばん最近で、カカシを男だと一目で見分けたのはミズキという中忍の女だった。
カカシもまた、ミズキの美しく可愛らしい顔とは裏腹な、打算的で自己中心的な性格をあっさり見破ったのだが。
「だから、可愛いんですよ」
不知火ゲンマは言う。
戦闘のスペシャリストとして特別上忍になった男で、よくカカシとも組む。
優男の外見に反して、厳しく、しっかりとした芯を持つ、戦う男だ。
そのゲンマが、ミズキが可愛いと言う。
「あんなに可愛い女はいませんよ。身贔屓かもしれませんけどね」
長楊枝を揺らし、照れたように笑う。
異母妹だと打ち明けられた。
「誰よりも幸せであってほしいんです」
そのためなら、自分の幸せなど何も要らない。
ゲンマは、真顔で言った。

カカシ、カカシ。
カカシは、世界一、幸せになるの。
そのためなら、かあさまは、なんだってするわ。
かあさまはカカシのため生きて、カカシのために死ぬの。
カカシ、カカシくん。
おれが天からもらった幸せは、みんなきみのものだよ。
そんなもの、もらってるんだったらね。
かわりに、きみの罪は、ぜんぶおれが持っていく。
それも、そんなものがあるんだったらね。

ときに、愛は、憎悪よりも相手を苦しめ、全てを奪い、壊していく。
カカシは、それを知っている。
ゲンマのこれほどの愛情に、いわゆる「可愛い女」であるミズキが、耐えられるのだろうか。
危惧をいだきながら、カカシはゲンマに何も言わなかった。
言葉で止められるものなら、今までにそうしてきている。

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