カカシが、サクモとミナトと過ごした空間は、この世の現実には残っていない。
家は、九尾の折に倒壊していた。
土地の権利も里に譲渡してしまった。
「私の家は残っているんです。私は宿舎住まいですし、住む者もなくて荒れるだけで、里に申し訳ないといえば申し訳ないのですが」
カカシの寝台に腰掛け、着ている物を脱いでいきながら、イルカは淡々と語を紡ぐ。
イルカは、九尾に、共に忍者であった両親を奪われたそうだ。
九尾を封印された器であるナルトを、九尾と同一として憎む者は今も多い。
だが、イルカは、四代目の意を正しく理解している。
九尾は憎い。だが、容れ物にされただけのナルト自身は愛しい。
産む性になく、母性でもなく、ただ、溢れるだけの愛情を注ぐ。
サクモと同じ種類の生き物、イルカ。
カカシはイルカより先に、一糸と纏わない全裸体になる。
瞳の色以外は、生前のサクモと全く同じ姿。
「ねえ。これで、瞳だけはあおいの、覚えがある? あ、あおはね、四代目やナルトみたいな真夏の空みたいな色でなくてね、寒い海みたいな凍えた蒼だよ」
「はい」
イルカは、決然とカカシを見据えた。
「私の瞳が知っています」
カカシは、イルカがまだ取っていなかった下着を剥ぎ、裸身をいだいて寝台に転がった。
イルカも、女でしかない姿だ。
大きくはないが形の良い乳房は、つん、と張っている。
女の掌で、カカシはその乳房をまさぐった。
まさぐりながら、甘く囁く。
「教えてください。その瞳が見てきたこと」
イルカは身を震わせ、目を閉じる。
「閉じちゃ、だめ。ちゃんと見て。はたけサクモが愛した、その黒い瞳を閉じないで」
熱い吐息をひとつ、イルカはついた。
しっかりと目を見開き、カカシをその瞳に映す。
「私の母は狂っていました」
静かに、イルカは語を発した。