サロメ3

もちろんミズキのほうが目立っていたが、うみのイルカもなかなかに人気であった。
美人でないところがいい。癒される。
そんなふうに、上忍たちまで言いあっているのをカカシも聞いた。
アカデミーの生徒たちもよく懐いている。
きっと良い母になるだろう。
だが、男たちが言うのを聞けば聞くほど、カカシは違和感を覚えるのだった。
目くらましを掛けられているような気がする。
何が、どこが、とは言えないのだが。
ナルトを介して直接に対するようになり、カカシは感嘆した。
うみのイルカは、なんと見事に化けの皮をかぶっていることか。
愛情を溢れさせていたけれど、母性など一滴も持ってはいなかった、それを自分では知らなかったはたけサクモと同じ種類に、イルカは属している。
産む性ではない。
サクモは女ではあったけれど、産む性ではなかった。
イルカははっきりと、男だ。
なぜ、女の振りをしているのだろう。
自分のように、任務に便利だからだとも思えない。
「イルカ先生。セックス、しませんか」
受付で報告書を出し、イルカの耳元まで口を持っていって、カカシは囁いた。
イルカは一瞬、頬を真っ赤に染め、次には蒼白な顔色になった。
カカシはわざとゆっくりと口布を降ろし、イルカに顔を見せて微笑んだ。
「この顔、きらい?」
イルカは俯いた。
もう、赤くも青くもならなかった。
被り続けて皮膚と同化しているのであろう、イルカの仮面が外れた。
しばらくの間の後、カカシをふりあおいだイルカの顔には、何の表情も浮かんでいなかった。
カカシは、優しい声で言う。
「仕事が終わったら、私の部屋に来てください。上忍宿舎の二階の端です」
「承知しました」
イルカは、無表情のままに答えた。

カカシが、サクモとミナトと過ごした空間は、この世の現実には残っていない。
家は、九尾の折に倒壊していた。
土地の権利も里に譲渡してしまった。
「私の家は残っているんです。私は宿舎住まいですし、住む者もなくて荒れるだけで、里に申し訳ないといえば申し訳ないのですが」
カカシの寝台に腰掛け、着ている物を脱いでいきながら、イルカは淡々と語を紡ぐ。
イルカは、九尾に、共に忍者であった両親を奪われたそうだ。
九尾を封印された器であるナルトを、九尾と同一として憎む者は今も多い。
だが、イルカは、四代目の意を正しく理解している。
九尾は憎い。だが、容れ物にされただけのナルト自身は愛しい。
産む性になく、母性でもなく、ただ、溢れるだけの愛情を注ぐ。
サクモと同じ種類の生き物、イルカ。
カカシはイルカより先に、一糸と纏わない全裸体になる。
瞳の色以外は、生前のサクモと全く同じ姿。
「ねえ。これで、瞳だけはあおいの、覚えがある? あ、あおはね、四代目やナルトみたいな真夏の空みたいな色でなくてね、寒い海みたいな凍えた蒼だよ」
「はい」
イルカは、決然とカカシを見据えた。
「私の瞳が知っています」
カカシは、イルカがまだ取っていなかった下着を剥ぎ、裸身をいだいて寝台に転がった。
イルカも、女でしかない姿だ。
大きくはないが形の良い乳房は、つん、と張っている。
女の掌で、カカシはその乳房をまさぐった。
まさぐりながら、甘く囁く。
「教えてください。その瞳が見てきたこと」
イルカは身を震わせ、目を閉じる。
「閉じちゃ、だめ。ちゃんと見て。はたけサクモが愛した、その黒い瞳を閉じないで」
熱い吐息をひとつ、イルカはついた。
しっかりと目を見開き、カカシをその瞳に映す。
「私の母は狂っていました」
静かに、イルカは語を発した。

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