熱い雪 2

ありきたりな、それだけに幸福な、家庭の夕べだった。
還されることなくずっとカカシの傍らに在る忍犬もまじえて、食事を摂り、他愛のない話をする。
ここでミナトは初めて、この家の姓がはたけといい、男の名はサクモ、上忍で、木の葉の白い牙と異名をとっていることを知った。
白い牙の名は、もちろんミナトも聞き及んでいる。
だが、サクモと白い牙が、どうしても結びつかない。
任務服姿で戻ってくるのをこの目で見ていてさえ、サクモが忍者であることも信じられない。
人であるのか、どうかさえも。
ミナトは、まだ、物の怪にたぶらかされているのでないか、と疑っていた。

食卓を簡単に片付け、風呂に入ろう、とサクモはミナトの手を引っ張った。
「おれは、カカシくんと」
咄嗟に、逃げようとするミナトに、カカシは澄んだ声で答える。
「さっき、パックンと入ったよ。兄さま、父さまと入って」
カカシは、あっさりとミナトの呼称と位置を決めてしまっている。
サクモに腕を取られたまま、ミナトは浴室に向かう。
脱衣場も広くとられた、宿屋のような浴室だった。
サクモは、ミナトの前に立ち、両手を広げた。
「脱がせてください」
ミナトは絶句する。
サクモは、目で促してくる。
手が、勝手に動いた。
サクモの任務服を落とし、髪をほどく。
ミナトは、女の全裸など見慣れている。
男の裸なら、裸と認識することもない。
美しい女も、美しい男も知っている。
知っていると思っていた。
この、全裸のサクモを見るまでは。
背に流れる銀色の髪。
真珠の光沢を持つ肌。
冬の海のような蒼い瞳だけが、色彩を持っている。
銀色に煙る下生えに守られた性器は、確かに、男であることを示しているのに。
衝動的に、ミナトはサクモを抱きしめ、口を吸っていた。
「あなた、何者です」
長い口付けの後で、ミナトは問う。
「サクモ、と呼んでください」
サクモはふわり、と笑った。
「違います、そうじゃなくて」
ミナトは、サクモの肌に指を走らせる。
「んんっ」
鼻に抜ける息を吐いて、サクモは身をよじる。
「まだ、です」
からかうように言い、そのままミナトの腕からすり抜け、サクモは、湯へ行く。
慌てて、ミナトは自分も全部を脱ぎ、後を追った。

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