熱い雪 4

サクモのからだは勝手に蕩けるだろう。
そう、ミナトは思い込んでいた。
かたく、開くことを拒み、血を流すことなど考えていなかった。
「痛い、ですか?」
足は大きく広げさせたまま、顔を覗きこみ、サクモの髪をかきあげて、ミナトは尋ねる。
こくん、とこどものように、サクモは首を傾けた。
「まさか。はじめて、なんですか?」
ひとですらを怪しむような。
この世のものではないような。
男を誘う魔性。
ミナトは、サクモをそんなふうに捉えていたのに。
「ミナトとしか、しません」
咎めるような口調でサクモは言い、ミナトの背を抱く。
反射的に、ミナトはサクモを深くえぐった。
耐えきれず、精を放つ。
まだ萎みきってはいない雄を抜き、サクモを抱きしめる。
「サクモさんは、おれを? おれだけを?」
言葉をうまく発せない。
サクモは彼らしく、ふわり、と笑う。
「ミナトだけを待っていました」
ミナトは、全身が引き絞られ、心臓を何かに鷲掴みにされたような感じを覚えた。
それは、決して不快なものではない。
歓喜。
恋の歓喜を、ミナトは初めて知った。

ミナトの腕を枕にして、サクモはほとんど寝息も立てることなく眠っている。
不本意としか言いようのない交わりの後、激しい欲望に浸されながらも、ミナトは再びサクモを抱くことが出来なかった。
愛しすぎて、行為に及べない。
髪に、頬に、唇にキスするだけで、切なく、満たされる。
くすくす笑って、ミナトの接吻を受けていたサクモは、あっさりと眠りに落ちてしまった。
ミナトはまだ、サクモの髪を指で梳き、キスを繰り返す。
つかまってしまったのだ、と再認識した。

キスで、ミナトは目覚めた。
清冽な冬の朝陽が、部屋に射し込んでいる。
「朝食、出来ていますよ。起きてください」
柔らかな、男の声。
ミナトは、はね起きる。
「サクモさん」
男の名を呼ぶ。
サクモは、ベストを脱いだだけの任務服姿で、髪も後ろに一つに縛っている。
昨夜の名残は、うかがえない。
「からだ、辛くないですか? ゆうべ、おれ、無茶して…」
「大丈夫ですよ」
サクモはミナトの手を取り、自分の頬に当てる。
ミナトは手をずらし、髪に触れる。
「髪、結んじゃったんですね。おれが、したかったのに」
「じゃ、寝坊しないでくださいね。もう、朝を食べる時間もなくなりますよ」
サクモは、ミナトを促す。
もう、ずっと、こんな朝を迎えてきたような。
これからも、ずっとこんな朝が続くような。
奇妙な感覚を、ミナトは持った。

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